コーティング黒鉛材料も、「含浸処理黒鉛材」と同様に「黒鉛グラファイト」の欠点を補う為に処理をされる方法です。コーティングとは(文字通り、カーボン(黒鉛・グラファイト)の能力を上げる為にカーボンに他材料の被膜を施し、カーボンの能力を上げる処理方法です。
コーティングの欠点は、高温度域や低温度域で熱膨張率の違いによりコート被膜が剥がれたり、シワになってしまい被膜が剥がれ落ち、効果が発揮できなくなってしまう事です。
SiC(炭化珪素)コーティング処理
半導体は、珪素(Si)のインゴットを厚さ1mm程度に切断した物(=ウ工ハー)に、アクセプターやドナーとなる不純物導入や絶縁膜形成、配線形成を作ることにより半導体となります。
半導体の製造工程では半導体ウ工ハーを加熱し、その表面に薄膜単結晶層を成長させるために使用する台(サセプター)が必要となります。その際の加熱温度は1000度以上でガスを流入して成膜を促すため、高温での消耗や化学反応による腐食を防げる材料が必要となります。
半導体製造装置によく使われている石英ガラスという材料があります。石英ガラスは水晶に極めて近い物質で不純物が非常に少ない材料です。石英ガラスは、シリコンウ工ハーに絶縁被膜を形成する高温ガスを吹き付ける為の容器や、シリコンインゴットを作る際の、ルツボとして使用されています。
しかし、ガラスなのでカーボン(黒鉛・グラファイト)に比べ熱に弱く、1000~1200度程度で熱変形や歪みが生じます。ウ工ハーが歪んでしまえば半導体用の製品としてシリコンが使えなくなる為、石英ガラスのサセプターは使えません。
一方、カーボンは熱に非常に強い特性を持ちます。
シリコンは石英ガラス(Si02)と反応して微量ながらSiO (一酸化ケイ素)を発生させます。その一酸化ケイ素ガスはカーボンと反応し、酸化や割れの原因となる問題がありました。
そこで、着目されたのが炭化珪素(SiC)です。
炭化珪素は(地球上で3番目に硬い化合物で、圧縮による変形を受け難い特性があります。また、耐熱性に優れ、熱伝導率も高く、熱膨張率も低いという特性を持っています。更には耐薬品性、耐酸化性にも優れています。そういった事から、カーボンにSiC (炭化珪素)をコーティングして被膜を作り、一酸化ケイ素ガスと反応しないよう処理され、サセプターとしてカーボンが使用されています。
SiC(炭化珪素)コート処理されたカーボンの利点は、カーボンの持つ特性に加え、物理衝撃に強くなっていて急速局部加熱にも耐えられます。超高純度で微細加工の形状にも均一にコーティングが出来ます。その上、700度くらいまでは酸化雰囲気でも使用できる特徴があります。更には、カーボン粉(パーティクル)が出にくい事も特性の一つです。
SiC(炭化珪素)コート被膜は被膜の厚みを変える事にり寿命を長くしたり強度を上げる事が出来ます。お客様のご希望により被膜の厚みを設定いたします。
※インゴット(=素材を精製して一塊りとしたもの。鋳塊「ちゅうかい」とも言います)
SiC(炭化珪素)コーティング処理黒鉛の主な使用用途
- エピタキシャル用サセプター
- CVD用サセプター
- ウ工ハーキャリア
- ダミーウェハー
- ガイドリング
- エッチャー部材
- 抵抗加熱炉ヒーター
- ハイカレント イオン注入機械用部材
- SiCコーティング、耐酸化・耐熱グラファイト部品
- シリコン半導体、化学物半導体、光ファイバー等の、製造装置炉内部品など
PBNコーティング(熱分解窒化ホウ素コート)処理
BN(ボロンナイトライド)をカーボン(黒鉛・グラファイト)へCVD法によりコートした処理を言います。
PBNコーティング(熱分解窒化ホウ素コート)をカーボン基材に施す事により、
- 高絶縁性で高温域でも性能の変化は少なく安定していて、耐熱性、熱衝撃に強い。
- ほぼ全ての物質に対して反応せず、酸化雰囲気・高温域でも金属・化合物に反応しない。
- カーボン(黒鉛・グラファイト)の加工後にコ一ト処理を施す為複雑な形状の基材にもコ一ティングが出来る
PBNコーティング(熱分解窒化ホウ素コート)処理黒鉛の主な使用用途
- サセプター
- 半導体製造装置用ボート
- PBNコーティング黒鉛ルツボ
- ガラス基盤加熱ヒーター
- 半導体ウ工ハ用ヒーター
- 炉内部品・絶縁部品
- 金属焼入れ用トレーなど
ガラス状炭素被膜(ガラス状カーボンコート)処理
ガラス状炭素被膜(ガラス状カーボンコート)とは、カーボン(黒鉛・グラファイト)の基材の表面や、表面に近い材料層にガラス状の炭素を被膜・含浸処理して作られる製品です。
(特殊な樹脂を含浸して高温で樹脂を炭化して作られます)
ガラス状炭素被膜(ガラス状カーボンコート)処理を施す事により、
- 黒鉛粉(パーティクル)の抑制が出来る
- 高純度である
- ガスなどとの反応を抑制出来る
- 金属、硝子との反応を抑える
- 表面硬度を改善できる
- ガスや液体の透過をおさえる
ガラス状炭素被膜(ガラス状カーボンコート)には、グレードがあります。温度処理が 低温の時は硬度が上がります。また、高温にすると黒鉛化が進み被膜は柔らか目となりますが高純度が得られます。 その為、お客様の使用状況に合わせたガラス状炭素被膜(ガラス状カーボンコート)のお勧めの材料を提案いたします。
ガラス状炭素被膜(ガラス状カーボンコート)処理材料の主な使用用途
- MO-CVD用サセプター
- 液晶基盤等の加熱用プレート
- ロウ付け治具
- ホットプレス用治具
- 封着治具
- 高温炉、および真空炉用部品
- 連続鋳造用ダイスなど
黒鉛(グラファイト)へのセラミック材料の溶射処理
溶射とは、金属やセラミックス、サーメットなどをさまざまな熱源を用い溶融・軟化させ溶融粒子を基材へ噴射します。基材表面に吹き付けられた溶融粒子は瞬時に冷却されて固化し基材に被膜を形成します。材料を噴きつけて機能被膜を形成する表面改質技術を「溶射処理」といいます。
黒鉛(グラファイト)を使用する用途や機械設備は、苛酷な環境や条件にさらされることが多く「溶射」は黒鉛(グラファイト)製品の性能アップに欠かせない表面改質技術となります。
黒鉛(グラファイト)は通電性がございます。絶縁材の溶射により電気を通さなくしたり、黒鉛(グラファイト)は酸化などにより粉となり飛散をしてしまう点がございますが、溶射により酸化 を防ぎつつ防塵対策も出来ます。
弊社では、各種コーティング処理、セラミックス溶射処理といった被膜処理技術をご提案させていただきます。
黒鉛(グラファイト)材料の溶射処理の欠点としては、高温度域や低温度域で黒鉛(グラファイト)と溶射材料の熱膨張率の違いにより溶射被膜に衝撃が加わると被膜が剥がれてしまうことです。それにより被膜処理の効果が発揮できなくなってしまう事があります。弊社では、溶射被膜が剥がれにくい処理を施した製品を提供させていただきます。
パイロリティックグラファイト(熱分解炭素黒鉛)コート処理
高純度黒鉛材料に主に炭化水素などの炭化ガスをCVD法により熱分解炭素をカーボン基材に被覆させた製品を「パイロリティックグラファイト」といいます。通常のカーボンと同じように耐熱性(約3000度)に優れています。パイロリティックグラファイト(熱分解炭素黒鉛)の優れた点としては、通常の黒鉛よりも表面が緻密であり、カーボン基材へのガス透過の低減をさせ基材の反応の抑制などの効果があります。その為、カーボンの酸化消耗が少なく長期使用が出来るメリットがあります。
主なパイロリティックグラファイトの特徴としては、
- きわめて緻密であり高密度である
- 熱衝撃に強い
- 超高純度である
- 低温域での耐酸化性に優れる
- 酸・アルカリ共に、耐薬品性に優れている
- Si(珪素)への耐性にも優れている
- ガスの放出量が極めて少なくなる
- パーティクル発生が無い
- 表面の平滑性が向上する
- 従来の黒鉛材と比較して表面反射率が約2倍ある
- 従来の黒鉛材と比較して、面方向の熱伝導率が約3倍ある
パイロリティックグラファイト(熱分解炭素黒鉛)コート処理材料の主な使用用途
パイロリティックグラファイトの特徴を活かして、分析用、高温炉部品、各種治具分野に使用されています。
- ガス不浸透性反応管
- 半導体用サセプター、ボード、ヒーター、トレイ等の治具
- 原子吸光用チューブや内壁
- 金属溶解ルツボ
- 酸化還元電位の測定用電極
- 液相エピタキシャル成長用治具
- EB (エレクロトンビーム)用ハースライナー
- スパッタリングターゲット
- イオン源の引き出し電極
- イオン注入装置部品
- ドライエッチング装飾部品