溶射処理入門編

2.溶射設備の種類や特徴などの紹介

溶射処理を行う際に使用される溶射装置にはいくつか種類があります。 装置により高温でしか軟化しない材料に合わせて溶射装置を選んだり、フレームの火花の温度や、溶射す相手材に合わせ使い分けをします。

溶射には大きく分けてガス式と電気式とコールドスプレーの三種類があります。 また、ガス式は高速ガスフレーム溶射とガスフレーム溶射に、電気式はプラズマ溶射とアーク溶射に分類されます。

高速フレーム溶射(HVOF、HVAF)

フレーム溶射中の粒子の飛行速度を大幅に高くし、強い衝撃力をもって溶射被膜を形成するように工夫された溶射方法です。材料とガスの燃焼は溶射ガンの内部で起こります。 発生した燃焼ガスは細いノズルで絞られ、さらにバレル(銃筒)を通るうちに高速のジェット噴流となり、音速を超える速度(約マッハ4)となります。溶解された材料及び溶射レーザーに衝撃波が発生し、ショックダイヤモンドと呼ばれる白色の輝く菱型が生じる程のスピードで材料が放出されます。 粉末粒子が高速で基材に衝突するので、緻密な被膜が得られ密着強度が高くなる溶射方法です。あわせて、フレーム中への大気の混入が少なく酸化し難い溶射膜が得られます。他にも、高付着力、高硬度の特性を持っており、主にサーメット材料を用いた、耐摩耗溶射に広く利用されております。

ガスフレーム溶射

燃料(アセチレンやプロバンガス)と酸素ガスが充満した燃焼フレーム内に溶射材料を送り込み、フレーム内で溶融した材料が圧縮空気等により吹き飛ばされて溶射被膜を処理する方法です。材料供給方法としては「線状」「棒状」「粉末状」で溶射機へ供給されるようになっております。

溶線式フレーム溶射

線状に加工できる金置材料ならば、亜鉛・アルミニウムのような低融点材料から、炭素鋼・ステンレス鋼・モリブデンなども溶射が可能です。対象物が鉄材でも非鉄材でも溶射でき、条件次第では紙などにも溶射を施せる溶射方法です。加工物の温度を150℃以下に保つことができ、対象物の熱による変形・割れ・強度低下等の熱による材質の劣化を避けることが可能です。溶射機設備が簡易で溶射ガンも軽量であり現場施工に適しております。溶射中に粒子表面や粒子自体が酸化物・炭化物を構成し、原料より耐摩耗性が得られる優れた照射方法です。

溶棒式フレーム溶射

融点が高いセラミックの溶射が出来ます。完全に溶融された粒子だけが溶射されるので、セラミック溶射の中では靱性(粘り強さ)がある溶射被膜が形成されます.
★溶解していない粒子=未溶融粒子と言われます。

粉末式フレーム溶射

燃焼炎中で材料を溶融させ燃焼ガス流により加速し、基材に溶融粒子を衝突させて被膜を形成します。主に、溶射後に再溶融処理をする自溶合金溶射やプラスチック溶射に広く利用されています。
溶射後に1000℃以上の温度でヒュージング(溶融処理)を施すので、基材との合金層を含んだ気孔が極力少ない被膜が形成されます。
様々な化学溶液に耐える耐食性をもち、耐磨耗性・耐工ロージョン性・耐高温酸化を兼ね備えた優れた溶射被膜が得られる特徴があります。
★工ロージョン=配管の曲がりの部分が、内部を通る材料 (水蒸気でも発生)により侵食を受けること。

自溶合金溶射

フュージング(再溶融)後、溶射材が酸化されることで、合金中の酸化物を還元し、ほうけい酸系ガラス質スラグとなります。これが基材上の鉄などの酸化物を溶融し、合金の基材に対するぬれ性を向上させ、溶射被膜と基材の間に相互拡散による合金層を形成させることで冶金的に結合し、密着力を著しく向上させます。

プラスチック溶射

主にナイロン11とポリエチレンを材料とするもので、あらかじめ母材側を予熱しておき、それにこれらの樹脂粉末を溶射して被膜を形成する方法です。

プラズマ溶射

プラズマ溶射は、溶射ガン内部に対向して置かれた陰極と陽極の間に電圧をかけて直流アークを発生させ、アークによって不活性ガス(作動ガス)
を電離させて高温の熱プラズマを作ります。プラズマによりガスを急速に膨張させ、高温・高速のジェット(マッハ1 ~2 )のプラズマフレームが形成されます。
プラズマフレームは極めて高温( 10000℃以上)である為、高融点の金属、サーメット、セラミックスをはじめ、ほとんどの材料を溶射することができます。高温、高速プラズマ流により、材料を完全溶融されるため、形成される被膜は高硬度となります。また、プラズマ溶射は溶解せずに分解や気化するような物質を除けば、どのような材料でも溶射可能となります。あわせて被膜は高密度で、基材との密着性が良いのが特徴です。更に、加工物の温度を150℃以下に制御できるため、熱歪み・加工物の劣化が生じません。粒子間の密着性が強く、高密度でなめらかな被膜が出来上がります。
プラズマ溶射には、大気プラズマ・減圧プラズマ・高振動プラズマ・水中プラズマの溶射処理方法が存在します。

アーク溶射

連続的に送給される2本の溶射材料(金属線材)の先端で直流アーク放電させ、 溶融した金属を空気ジェット(圧縮空気)で吹き飛ばす溶射法です。特徴としては、溶射速度が格段に速く、1時間当たり30~40kg分の金属を溶射することが出来、広い範囲に速い速度で溶射作業を施すことが出来ます。また、密着強度・被膜強度がフレーム溶射より高く、5000℃以上の高温域で基材と被膜間で拡散層を形成します。溶射材料は電気伝導性に優れた材料に限られますが、高温で溶融されているため基材への密着性に優れています。他にも、2本の異なるワイヤーを使用する事によって混合材料や擬似合金化した被膜を得ることも出来ます。

コールドスプレー

材料の融点又は軟化温度より低い常温から、ヒーターにて昇温した不活性ガス(作動ガス)を先細末広形のノズルへ超音速流にして材料を投入し、固相状態のまま基材に衝突させて被膜を形成する溶射処理です。 溶射材料の熱による特性変化が少なく、被膜の酸化を最小限にする事が出来ます。金属蒸気が凝集した微細な粒子(ヒューム)の発生がなく緻密な被膜を作れ、圧縮性残留応力のある厚膜整形が可能です。